二人の王
 その国は二人の王が支配する。
 常に男の双子である。見た目の区別はほとんどない。
 それぞれが、天と地とを司る。
 一方が戦に出向けば、もう一方は国を守る。
 国にあるときは、玉座から同じ景色を眺め、同じものを食い、同じ衣を身につけ、同じ朝を迎え、同じ夜を過ごし、同じ床を温め、同じ女を抱き、同じ夢を見る。
 女を間に置かぬ夜は、元からひとつであったものを、再びひとつにしようとするかのように、互いの体液を混じりあわせ、互いの身体を貫きあう。より深く、より完全に融合せんと、繋げては解き、解いてはまた繋げあうのを繰り返す。
 同じ顔が歪むのを月光の下に見、同じ声が喘ぐのを薄闇の奥に聞く。
 それは、蛇が己の尾を喰らって環を描く様に似る。もっとも神々の僕たる足なしとは違って、かれらのつくる環は、ひどく歪で不完全だったけれど。

 冬を迎える前、蛮人らが馬を駆って河を越えてきたとの報があった。古い決まりにしたがって、一方は戦に出向き、もう一方は国を守った。
 季節は巡る。
 しかし、玉座はいまだひとつ空いていた。
 二人の王は、違う景色を眺め、違うものを食い、違う衣を身につけ、違う朝を迎え、違う夜を過ごし、違う床を温め、違う女を抱き、違う夢を見た。
 季節は巡り続ける。
 戦に出た王が醒めるような澄んだ空の青を目に映しながら、馬から引きずりおろされ、敵の槍で胸を何度も突き刺されたのと同じとき、国を守る王は祭壇の前で香の匂いを鼻に満たしながら、忠臣の剣に腹を抉られて腰を屈し、悶え苦しんでいた。ちょうど祈祷を口にしかけたその瞬間のこと、聖なる言葉が刻まれるはずの唇からは、生臭い獣の息と赤黒くどろりとした血とがみじめたらしく流れるばかりであった。目玉だけが何かを探すようにぐるぐると廻って、高窓から差し込む陽光に戦場の方向を知ると、大きく見開いて、ぴたりとその動きを止めた。
 神々はかくも慈悲深い。かれらは再びひとつとなった。その願いは、たしかに聞き入れられたのだ。
 魂という荷を捨ててなお重い肉体が、ごとりと地面に転がった。四つの目がそれを冷たく見下ろしていた。
 血の滴る刃を祭壇に捧げた二人の若者も、また同じ顔をしていた。