友が死んだ。
知らせを聞いたその瞬間も、祈りと悲しみの声が空ろにひびく葬儀の席でも、冷たい土を丁重にかけられる棺を見下ろした時も、実感はわかなかった。
さめざめと目から水をたらす善き人々の前で、友の魂が真の静寂を知ること願わんと、うつくしい旋律をもつ祈りの文句にのせて口にしたが、本質を持たぬことばに果たして何の意味があろうか。石のような瞳は情深き涙に濡れることもなく群集を観察するばかりだった。
彼は部屋に戻ると、備えられた寝台に横になって、腹の上で指を組み、ゆっくりと瞼を閉じた。
ここ数日、自らすすんで不寝の番を引き受けたので、しっかりと睡眠をとるのは久しぶりのことだった。
眠気にまどろむ思考の海にたゆたいながら、この寝台の上で友人と過ごした夜を思い出す。
月にニ、三度、どちらからともなく互いの寝室に足を運んだ。
夜の闇にうごめくのは、まさに二匹の獣であった。彼らはあまりにも若く、彼らが身をおいていたのはあまりにも閉鎖された世界であって、日々の生活の光の影に隠された、身をじっとりと這う獣の熱い息にあらがう方法を知らなかったし、吐き出す術も他にもたなかった。
そこには、この俗世から隔絶された聖なる共同体の一員となる以前に年長のものから伝え聞いた、心とろかせるような睦言はなく、あったのはただひたすらに行き場のない渇望をぶつけ合う身体だけだった。原始の獣にことばは必要なかったのだから。唇はことばを生み出すために開くのではなく、むしろことばがもれぬように互いにふさぎあった。
すべてを終えると、若い情熱は熱されるときと同じように急激に冷えきって、何事もなかったかのように眠りにつくか、あるいはそのまま寝転びながら学問的な無味乾燥の対話を、子どもじみた理想論を交わすこともままあった。やがて訪れる夜が明けるか明けないかの刻時には、脱ぎ捨てた僧服に急いで袖を通し、陽光の元でせんと何一つ変らぬ生活を過ごすのが常であった。
彼らはそのときを除けば親しい友人に過ぎず、そこに甘い空気ははひとかけらもなかった。
ここまで思い至ると、彼の意識は波ひとつ立たぬ暗い水面に深く沈みかけた。
その夜は平生よりも気温が低く、薄い布団一枚では肌寒かった。身体は暖を求めて無意識の内に丸くなった。もうろうとする意識は記憶と経験を辿り、自然と、横にあるはずの体温を探さんと腕に命じた。軽くかじかんだ指先が敷布をまさぐる。
しかし、手に感ずるのは人のぬくもりではなく、冷え冷えと肌に刺さる夜の空気だけだった。
その瞬間、彼は呆然と目を見開き、闇に白く浮かび上がる手のひらのなかの虚無を思い出したかのように凝視した。
そこではじめて、声を殺して泣いた。