開け放された窓から、陽光が柔かに降り注いでいた。鳥のさえずりが幾重にもかさなって、晴れ晴れとした空の青を、鈴のなるように、軽やかにふるわせた。室の中央に敷かれた布団には、母親と幼子が横になっていた。母の手が子の髪を慈しむようになぜれば、乳のにおい甘くふくよかに、白い柔肌をかすめて漂い香る。昔語りをする優しい声音は風にまぎれて細く流れ、いずこともなく消えていった。曇りのないまなざしが揺れ、彼方を見、母を見、やがて緩やかなまどろみのなかに溶けていく。子は母の胸に顔をうずめた。そうして、滲むようなぬくもりに包まれて、わけもなく泣いた。
ある金持ちがあった。世のあらゆる贅を知り、快楽のすべをば知っていた。その男が臨終の際に見たのは、こういう景色であった。