ある男が、人ならぬ者と情を通じたことがあった。周囲の人間は厳しく戒めた。早々に縁を切れ、振り捨て逃げよ、あれらと人とが交わることはかなわぬと。
しかし恋に狂う男の耳にはもはや、そよぐ風の音すら届かない。ついには思いつめて剣をとり、共に逝かんと、暗がりに浮きあがる白い喉へ刃を押し当てた。女は黙し、ただ情人に美しい眼差しを送ることでもって、その応えとした。ややあって男は腹を決め、一息に女の喉を突いた。
だが、女はまだ生きていた。
身に降りかかる血の生暖かさに慄いた男は、一心不乱になって、かつて愛撫を注いだ柔肌を、形を留めぬほどに引き裂いた。
だが、女はまだ生きていた。
男は息を荒げ、目に大きな涙をば浮かべ、そのたおやかな四肢をばきりばきりともいだ。
だが、女はまだ生きていた。
許せ、許してくれと泣き喚きながら、最後に、首をはね落とした。
転げた首が男を見、静かに笑った。