子どもの聖者
最終夜
 ニルスさまとともびとは、暗く深い、夜の森の道を、ならんであるいていました。ふたりのちょうど肩のあたりに、ふわりふわりと光の玉がゆれていました。あたりはしんと静かでした。木々もねむりにつく時間なのです。
 ともびとはカンテラを大きくゆらしながら、うらめしそうにニルスさまをにらみました。
「ほんとうにまあ、変な名前をつけてくださいましたね! おかげでおれは生業をすてて、一生この名に縛られることになっちまった」
 ニルスさまは笑いました。
「お前にぴったりの、いい名前じゃないか」
「かんべんしてくださいよ」
 ともびとが口をとがらせると、おだやかなひとみで、光の玉を見つめていいました。
「どうだい、シモネッタ。奪うばかりでなく、与えることもそう悪くはないだろう?」
 少しの沈黙のあと、ともびとは目をほそめて、にやりとくちびるのはしをあげました。
「さあね」

 こうして、ニルスさまとともびとと、そしておさないミヒャエルは、月あかりのつくる道のうえを、ゆっくりとのぼっていきました。そのすがたは霧にかすみ、だんだんとぼんやりしてきて、やがて空気のように見えなくなりました。
(終)