#アンミナ #サイアン #元女王と元執事たまにはいちゃつかせてみたい続きを読む「ただいまー。外すごく寒かったですよ。もしかして雪が降るかも。あとね、珍しい野菜が売ってたから買ってきちゃいました。どんな料理が……」 パタパタと足音をさせてリビングに入ってくると同時に、アンジュは部屋の中央に鎮座するそれと、その隣にいる元執事を交互に見比べて大きく目を見開いた。 それから、ぱっと頬を上気させた。「コタツ!」「に見えますよね。ちょっと違います。正確にはコタツ的なもの、です」 コタツ的なものと称する家具の上にみかんを用意していたサイラスが、振り返りがてら丁寧なのか雑なのか判断しかねる説明をした。 だが、ローテーブルと布団が一体化したそれは、どこからどうみてもアンジュの故郷でおなじみだったあのコタツにしか見えなかった。「ネット通販で買ったの?」「そうですよ。なんでも買える……かもしれない。どこでも買える……かもしれない。通販の素晴らしさを今一度ご説明しましょうか?」「今はいいです」 驚きと懐かしさと嬉しさで心がいっぱいになる反面、一体どこでのサイトで見つけてきたんだろうと不思議に思う。アンジュが退任するずっと前にバースという星はなくなっているはずなのに。 そんな疑問をするりとくぐり抜けるように、サイラスはアンジュの全身をついと眺めて目を細めた。「おや、ちょうど手足が冷え切っておられるご様子ですね。相当に。聖地や飛空都市と違って、この星の冬はなかなかに厳しい」「まあそうですけど」「ハイッ、そこでこちらの出番です! ほらほらほら、ぼやっとしてないで温かいうちに足を入れる!」「温かいうちにって、電源入れてる間はずっと温かいですよね?」 しゃべりながらもてきぱきと服を脱がされ、手を伸ばして上げてと指示されてるうちにどこから取り出したのか温かくゆったりしたルームウェアを着せられ、流されるままコタツに脚を滑り込ませる。 これまたどこで手に入れたのか、褞袍のような羽織り物を肩にかけられる。さらには熱いほうじ茶まで。「ご感想は?」 そんなの答えはひとつだ。 アンジュの唇から、至福、という一語が滲み出るような深い息が漏れた。「あーーーー最高」 冷たい外気で氷のように固まってしまった身体が、じんわりと温かく、柔らかくほどけていく。 今の住まいにも暖房設備も整ってはいるが、身体が内から喜んでいくような優しいこのぬくもりは、アンジュが知る限りコタツでしか味わうことができないものだ。「それはよかった」 サイラスは笑うように唇を軽く引き上げると、するりと自分もコタツに入りこんだ。「冬場にリラックスするには最適のアイテムですね。干物を食べるのもよさそうです」「お鍋もしましょうよ。絶対おいしいです」「いいですね」「お鍋をつつきながら、きりっと辛めのお酒を飲んで……想像しただけで溶けちゃいそう。あ、でも、コタツで寝ると風邪引くから注意してくださいね」「経験談ですか? 私よりあなたの方が危なそうですが」「だって気持ちいいんだもん……」 サイラスの言葉を否定もせずに、うっとりとした表情で、卓上に頬をぺたりと押しつけた。 そのままの姿勢でしばらく過ごしたあと、アンジュは正面に座るサイラスに尋ねた。「ねえ、サイラス」「はい」「そっち、行ってもいいですか」「構いませんよ」 サイラスが両脚を寄せて作ってくれたスペースに、アンジュの半身が少々窮屈に収まった。「ちょっと狭い? 動けます?」「狭いといえば狭いですね。ですが、防寒のためにはいいんじゃないでしょうか」「サイラスと話してると、ものは言いようだなって思います。……うん、あったかいです」「ええ。このコタツ、特に下半身の保温については、驚くべき効果がありそうですね」「もうちょっとだけくっついてもいい?」「お好きな体勢でいていただいて結構ですよ」 じゃあ遠慮なく、と今でも近くて遠いその人にアンジュは少しだけ身を寄せた。 聖地に比べたら時間の流れは恐ろしいくらい早いはずなのに、二人でこうして過ごしていると、時が止まってしまったようにも感じる。 付き合いこそ長いものの、サイラスとのコミュニケーションは相変わらず彼の気質と同じように独特だ。だから許可を得るというのとはまた違って、他の人には聞かないようなことも、サイラス相手だと未だにいちいち確認してしまう。 いいですか。 いいですよ。 おまじないのように繰り返される言葉は軽快で居心地がよく、その響きに安心しているのは、他でもなくきっと自分自身だ。 ではあるのだが、変わらず凪いだ水面のようなサイラスの横顔を見ていると、アンジュの希望、つまりキスしてもいいか……とは何となく言い出しづらくて、飲み込んだ言葉と一緒にほうじ茶をまたひとくち。感謝を伝えるだけなら、コタツありがとうございましたと言えばいいのだ。 そのとき、斜め上からふっと現れた影が顔に落ちてきた。 落ちてきたなあと思ってからそれがキスだったことに気づくのに、唇が離れてから数秒かかった。しばらく頭がふわふわしていた。「いいですよ」 心の底まで見透かしてくるような微笑を浮かべ、あっさりと言いのける。事後確認もいいところだ。 まったく、この元執事ときたら。「……サイラス!」 強く名前を呼んでみたものの、コタツは温かくて、視線が思いのほか近くで絡んでいてほどけそうもなくて、先に続く台詞も気持ちも行き場を失った。仕方なくまだ芯に冷たさの残る指先で、やはり冷たい相手の頬に触れ、笑みを作った唇でその形をなぞるように口づけた。畳む 2023/12/03
たまにはいちゃつかせてみたい
「ただいまー。外すごく寒かったですよ。もしかして雪が降るかも。あとね、珍しい野菜が売ってたから買ってきちゃいました。どんな料理が……」
パタパタと足音をさせてリビングに入ってくると同時に、アンジュは部屋の中央に鎮座するそれと、その隣にいる元執事を交互に見比べて大きく目を見開いた。
それから、ぱっと頬を上気させた。
「コタツ!」
「に見えますよね。ちょっと違います。正確にはコタツ的なもの、です」
コタツ的なものと称する家具の上にみかんを用意していたサイラスが、振り返りがてら丁寧なのか雑なのか判断しかねる説明をした。
だが、ローテーブルと布団が一体化したそれは、どこからどうみてもアンジュの故郷でおなじみだったあのコタツにしか見えなかった。
「ネット通販で買ったの?」
「そうですよ。なんでも買える……かもしれない。どこでも買える……かもしれない。通販の素晴らしさを今一度ご説明しましょうか?」
「今はいいです」
驚きと懐かしさと嬉しさで心がいっぱいになる反面、一体どこでのサイトで見つけてきたんだろうと不思議に思う。アンジュが退任するずっと前にバースという星はなくなっているはずなのに。
そんな疑問をするりとくぐり抜けるように、サイラスはアンジュの全身をついと眺めて目を細めた。
「おや、ちょうど手足が冷え切っておられるご様子ですね。相当に。聖地や飛空都市と違って、この星の冬はなかなかに厳しい」
「まあそうですけど」
「ハイッ、そこでこちらの出番です! ほらほらほら、ぼやっとしてないで温かいうちに足を入れる!」
「温かいうちにって、電源入れてる間はずっと温かいですよね?」
しゃべりながらもてきぱきと服を脱がされ、手を伸ばして上げてと指示されてるうちにどこから取り出したのか温かくゆったりしたルームウェアを着せられ、流されるままコタツに脚を滑り込ませる。
これまたどこで手に入れたのか、褞袍のような羽織り物を肩にかけられる。さらには熱いほうじ茶まで。
「ご感想は?」
そんなの答えはひとつだ。
アンジュの唇から、至福、という一語が滲み出るような深い息が漏れた。
「あーーーー最高」
冷たい外気で氷のように固まってしまった身体が、じんわりと温かく、柔らかくほどけていく。
今の住まいにも暖房設備も整ってはいるが、身体が内から喜んでいくような優しいこのぬくもりは、アンジュが知る限りコタツでしか味わうことができないものだ。
「それはよかった」
サイラスは笑うように唇を軽く引き上げると、するりと自分もコタツに入りこんだ。
「冬場にリラックスするには最適のアイテムですね。干物を食べるのもよさそうです」
「お鍋もしましょうよ。絶対おいしいです」
「いいですね」
「お鍋をつつきながら、きりっと辛めのお酒を飲んで……想像しただけで溶けちゃいそう。あ、でも、コタツで寝ると風邪引くから注意してくださいね」
「経験談ですか? 私よりあなたの方が危なそうですが」
「だって気持ちいいんだもん……」
サイラスの言葉を否定もせずに、うっとりとした表情で、卓上に頬をぺたりと押しつけた。
そのままの姿勢でしばらく過ごしたあと、アンジュは正面に座るサイラスに尋ねた。
「ねえ、サイラス」
「はい」
「そっち、行ってもいいですか」
「構いませんよ」
サイラスが両脚を寄せて作ってくれたスペースに、アンジュの半身が少々窮屈に収まった。
「ちょっと狭い? 動けます?」
「狭いといえば狭いですね。ですが、防寒のためにはいいんじゃないでしょうか」
「サイラスと話してると、ものは言いようだなって思います。……うん、あったかいです」
「ええ。このコタツ、特に下半身の保温については、驚くべき効果がありそうですね」
「もうちょっとだけくっついてもいい?」
「お好きな体勢でいていただいて結構ですよ」
じゃあ遠慮なく、と今でも近くて遠いその人にアンジュは少しだけ身を寄せた。
聖地に比べたら時間の流れは恐ろしいくらい早いはずなのに、二人でこうして過ごしていると、時が止まってしまったようにも感じる。
付き合いこそ長いものの、サイラスとのコミュニケーションは相変わらず彼の気質と同じように独特だ。だから許可を得るというのとはまた違って、他の人には聞かないようなことも、サイラス相手だと未だにいちいち確認してしまう。
いいですか。
いいですよ。
おまじないのように繰り返される言葉は軽快で居心地がよく、その響きに安心しているのは、他でもなくきっと自分自身だ。
ではあるのだが、変わらず凪いだ水面のようなサイラスの横顔を見ていると、アンジュの希望、つまりキスしてもいいか……とは何となく言い出しづらくて、飲み込んだ言葉と一緒にほうじ茶をまたひとくち。感謝を伝えるだけなら、コタツありがとうございましたと言えばいいのだ。
そのとき、斜め上からふっと現れた影が顔に落ちてきた。
落ちてきたなあと思ってからそれがキスだったことに気づくのに、唇が離れてから数秒かかった。しばらく頭がふわふわしていた。
「いいですよ」
心の底まで見透かしてくるような微笑を浮かべ、あっさりと言いのける。事後確認もいいところだ。
まったく、この元執事ときたら。
「……サイラス!」
強く名前を呼んでみたものの、コタツは温かくて、視線が思いのほか近くで絡んでいてほどけそうもなくて、先に続く台詞も気持ちも行き場を失った。仕方なくまだ芯に冷たさの残る指先で、やはり冷たい相手の頬に触れ、笑みを作った唇でその形をなぞるように口づけた。
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