#アンミナ #サイアン #女王と執事 #恋愛未満女王の寝落ち続きを読む 持ち帰った仕事をしている途中で意識を失ってしまったり、お酒を飲んでいたらソファでうとうとしてしまったり。 バースにいた頃にそういうことがなかったわけじゃないけれど、女王になってから寝落ちする頻度が高い気がする。どうしてだろう? 会社員時代も仕事で毎日ヘトヘトで、疲れているという点では似たようなものなのに。 その夜も、アンジュはソファに横になりながら甘く蕩けるような微睡みにふわふわと漂っていた。 お風呂上がりに資料を読もうとしたのは失敗だった。ほどよく温まった心身は完全に休息モードに切り替わっていて、仕事が入り込む隙などなかったのだ。 そのとき、上から影が落ちてきた。しばらく黙って覗き込んできたその人は、耳元にそっと囁きかけてきた。「お客さーん、終点ですよー」 ――よくそんなローカルな表現を知ってますね?「ふむ。反応なし、と。バースの民はこの言葉を聞くと飛び起きるらしいんですが」 それ、一部の地域の一部の人だけだと思うんですけど……あっ、平くんなら起きるかも。 夢心地にそんなことを考えていたら、唇が笑みの形に崩れてしまった。「なるほど。実は起きてる、そんなオチですね」 半分正解で半分はずれ。意識はあるけれど、身体は眠っている。完全に起きたときにはたぶん覚えていない、そんな状態だ。 サイラスはそれから何度か呼びかけたり、耳元で歌ってみたり、カスタネットを鳴らしてみたりして(どこから出てきたの?)、アンジュが完璧に寝ていることを確認してからようやく腰を上げた。 柔らかいソファとそれ以上に柔らかい身体の間に腕を差し入れて、力をこめる。「それ。どっこい、しょ」 気合いのない掛け声と共に、身体がふわりと浮いて、アンジュはごめんねともありがとうともつかない呟きを口にした。 言葉にもなっていないようなもごもごとした声だったと思うのに、律儀に返事が返ってきた。「構いませんよ、お好きなところで寝ていただいて。運ぶ必要があれば勝手に運びますから」 ゆらゆら、ふらふら……たまに足元でゴンッと音がする。ちょっと不安定で、危なっかしくて、でも布越しにほのかに伝わる温もりがとてもやさしい。 開け放した窓から爽やかな夜の風が流れ込んできた。「おや」 ふと、声がした。「いい風ですね」 そのとき、アンジュは思わずサイラスの腕を握った。 いつの間にか眠ってしまうのは、心を預けた人たちが側にいるから。ひとりで眠る夜もひとりではないから。 近くで、笑う声がした。「そう簡単に落としませんので、ご安心を」 宇宙の女王は星の運命を紡ぐ指を柔らかくほどき、冠もなくドレスもなく、白い素足を投げだして、気まぐれに流れる揺籃歌に包まれながら、ゆっくりと微笑み、同じ早さで瞼を閉じた。畳む 2024/07/22
女王の寝落ち
持ち帰った仕事をしている途中で意識を失ってしまったり、お酒を飲んでいたらソファでうとうとしてしまったり。
バースにいた頃にそういうことがなかったわけじゃないけれど、女王になってから寝落ちする頻度が高い気がする。どうしてだろう? 会社員時代も仕事で毎日ヘトヘトで、疲れているという点では似たようなものなのに。
その夜も、アンジュはソファに横になりながら甘く蕩けるような微睡みにふわふわと漂っていた。
お風呂上がりに資料を読もうとしたのは失敗だった。ほどよく温まった心身は完全に休息モードに切り替わっていて、仕事が入り込む隙などなかったのだ。
そのとき、上から影が落ちてきた。しばらく黙って覗き込んできたその人は、耳元にそっと囁きかけてきた。
「お客さーん、終点ですよー」
――よくそんなローカルな表現を知ってますね?
「ふむ。反応なし、と。バースの民はこの言葉を聞くと飛び起きるらしいんですが」
それ、一部の地域の一部の人だけだと思うんですけど……あっ、平くんなら起きるかも。
夢心地にそんなことを考えていたら、唇が笑みの形に崩れてしまった。
「なるほど。実は起きてる、そんなオチですね」
半分正解で半分はずれ。意識はあるけれど、身体は眠っている。完全に起きたときにはたぶん覚えていない、そんな状態だ。
サイラスはそれから何度か呼びかけたり、耳元で歌ってみたり、カスタネットを鳴らしてみたりして(どこから出てきたの?)、アンジュが完璧に寝ていることを確認してからようやく腰を上げた。
柔らかいソファとそれ以上に柔らかい身体の間に腕を差し入れて、力をこめる。
「それ。どっこい、しょ」
気合いのない掛け声と共に、身体がふわりと浮いて、アンジュはごめんねともありがとうともつかない呟きを口にした。
言葉にもなっていないようなもごもごとした声だったと思うのに、律儀に返事が返ってきた。
「構いませんよ、お好きなところで寝ていただいて。運ぶ必要があれば勝手に運びますから」
ゆらゆら、ふらふら……たまに足元でゴンッと音がする。ちょっと不安定で、危なっかしくて、でも布越しにほのかに伝わる温もりがとてもやさしい。
開け放した窓から爽やかな夜の風が流れ込んできた。
「おや」
ふと、声がした。
「いい風ですね」
そのとき、アンジュは思わずサイラスの腕を握った。
いつの間にか眠ってしまうのは、心を預けた人たちが側にいるから。ひとりで眠る夜もひとりではないから。
近くで、笑う声がした。
「そう簡単に落としませんので、ご安心を」
宇宙の女王は星の運命を紡ぐ指を柔らかくほどき、冠もなくドレスもなく、白い素足を投げだして、気まぐれに流れる揺籃歌に包まれながら、ゆっくりと微笑み、同じ早さで瞼を閉じた。
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