#アンミナ #サイアン #女王候補と執事 #恋愛未満『夏の名残りの』続きを読む「ううーーん!」 アンジュは大きく伸びをして、朝の日差しを含んだ新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。溜め込んだ疲労がリセットされて、身体が細胞ごと生き返っていくようだ。 全身に満ちていく心地よさを噛みしめながら、特別寮を囲むように伸びる小径をゆっくりと歩く。花のにおいがする風を受けて、アンジュは微笑んだ。生まれたばかりの光が青々と茂る木々の葉に降り注いでいる。飛空都市の朝は素晴らしく気持ちがいい。夏の高原を思わせる爽やかさだ。 その日の曜日は、いつもより早くすっきりと目が覚めた。シャワーを浴びてもサイラスが朝食を持ってくるまでまだ時間があったから、外に出ることにした。 休日の早朝に散歩しようなんて、会社員時代には思いもしなかった。予定がなければ泥のように眠り、気づけば昼を過ぎていた、なんて日も珍しくなかったのに。 ゆるやかなカーブをすぎようとしたとき、どこからともなく小鳥の囀り……ではなく人の声が聞こえてきた。 声というより、歌のような? アンジュは思わず足をとめ、耳を疑った。「これって」 子ども時代、準備体操のときに流れていた曲のように聞こえるのだが。聞き間違いかと思い、アンジュはもう一度耳を澄ませた。「……あれだよね?」 でも、間違いじゃない。絶対にそうだ。リズムもメロディも、大人になった今なお耳と身体に刻み込まれている。「これはこれはアンジュ様。おはようございます」 背中を見せて屈伸していた声の主が、こちらを振り返ってにこりと笑いかけてきた。「やっぱり」「やっぱり、とは?」 アンジュは女王候補の執事につかつかと歩み寄った。「絶対にサイラスだと思ったんです」「オオ、そのような絶大な信頼を寄せていただくとは。光栄の極みですね」「体操してるんですか」 サイラスはいつもの執事服ではなくラフなTシャツ姿だった。髪も整えていなかったから、彼もまだ起きたばかりなのかもしれなかった。「はい。朝の軽い運動は心身のバランスを保つのにいいんですよ」 サイラスが心身のバランスを崩すなんて想像できなかったが、彼も人間だ。そういうこともあるのだろう。 アンジュは尋ねた。「それ、バースの体操ですよね」「そうです。バースの動画サイトで見つけ……これだ! といたく感銘を受けまして。健康管理に取り入れようと思った次第です」「毎朝やってるんですか」「基本的には。アンジュ様たちの朝食をおいしく作り上げるための、大切なルーティンです」 昨日の目玉焼きは失敗作って自分で言ってた気がするけど、という言葉をアンジュは飲み込んだ。「私も子どもの頃よくやってたんですよ、その体操。たぶんタイラーとレイナも」「なるほど。心の故郷、というわけですね。テーマ曲も覚えてしまいました。バースのロングヒット曲だと聞いています」「ロングヒット……?」 ふんふふふふふんと、サイラスはごきげんな様子で鼻歌を披露した。「朝の爽やかさを感じる、良い曲だと思います」「歌上手ですね、サイラス」「あなたもしていきますか、体操」「今ですか」「はい」「ここで?」「ええ」「……サイラスの伴奏つき?」「僭越ながら。二番も歌えますよ」 少し考えてから、じゃあ、とアンジュはぺこりと頭を下げた。「よろしくお願いします。最近ちょっと運動不足かなって思ってたんです」「こちらこそ。では張り切っていきますよ!」「あっ、ちょっと待って!」 楽しそうに腕を振り上げるサイラスの横で、アンジュも同じように大きく腕を動かした。 飛空都市では不思議なことばかり起きて、毎日驚かされる。 まさか、執事と体操をすることになるとは! 二番まで終えた時点で、アンジュは軽く息を切らせていた。「私、二番の動きは知りませんでした。ちゃんとやると結構疲れるんですね……」「毎日継続することが体調管理への近道です。こちらをどうぞ」 サイラスが手渡してきたのは、葉書サイズのカードだった。ポイントカードのように小さなマスが書かれていて、最初の欄にスタンプが押してある。干物の。「いつも差し上げているポイントとは別になります。バースでは、体操をした子ども達にスタンプをあげているとか」「夏休みにですよね? 私が住んでいるところではなかったですけど……でも、ありがとうございます」 素直に受け取ったあと、疑問が頭によぎった。 ……子ども? サイラスの唇に、ふっと笑みが浮かんだ。「アンジュ様、また体操がしたくなったときにはお付き合いしますよ。女王候補様方の健康管理も執事の役目のひとつです」 ふだんからちょっと変わっているしちょっと失礼なところがある人だが、ラフな格好をしているせいか、いつもよりも笑顔に仕事用の胡散臭さがない、気がした。彼の方こそ、目に子どもみたいな光が浮かんでいる。「日の曜日でしたら、大抵この時間ここにいますから。ま、時々サボることもあるかもしれませんが」 自己申告の通りたまにサボる日もあったが、ほとんどの休日の朝、女王候補の執事は同じ場所で体操に勤しんでいた。もちろん鼻歌のテーマソングつきで。 体操の参加者はサイラスとアンジュだけではなく、アンジュに誘われたレイナがいたこともあった。サイラスに引きずられるようにタイラーが参加した日もあり、興味を持った守護聖たちがいた日もあり。女王試験が進むごとにアンジュのスタンプカードは埋まっていった。通販で買っているのか、毎回違うスタンプが押されているのがサイラスらしい。 日常のポイントと同じように、スタンプを集めたら何かと引き換えられるのだろうか? それからしばらくして、アンジュは真夜中にふと目が覚めた。なぜか突然、体操のスタンプカードのことが頭に浮かんだ。「……そっか」 そこでふと、あのカードのスタンプが最後まで埋まることは永遠にないのだと気づいた。 ――大陸の発展度が八十になった夜のこと。「タイラー、これを神鳥の王立研究院に送ってほしいの」 王立研究院にあるミーティングルーム。先日提出した報告書の問題点の検証を終えたあと、女王から差し出された白い封筒を、タイラーは恭しく受け取った。「はい、了解しました」「忙しいのにごめんなさい。私的なものだから、手が空いたらお願いします。そうそう、私からっていうのは伏せておいて」 私的なもの、しかも匿名扱い? どうにも引っかかりを覚えたが、他ならぬ女王の頼みだ。タイラーは戻り次第、すぐに手続きを行った。 数日して、女王宛に神鳥の宇宙から差出人不明のファイルが届いた。女王宛、かつ差出人不明である。危険性がないかどうか、当然、中身を確認した。「……ったく」 解析を完了し、数列が並んだ画面から視線を外すと、タイラーはデスクに肘をつき、小さくため息をついた。「平くん、どうしたの? 仕事の相談?」「とにかくタブレット開いて」「今すぐ?」「そう。直接送りたいものがある」 午後の仕事を切り上げて女王の元に向かったタイラーは、執務室で二人だけになったとたん口調を崩した。 不思議そうにタブレットを立ち上げる女王の目の前で、タイラーは自分のタブレットを素早く操作した。「お前宛のファイル。神鳥から」「私宛? 何だろ……」「この間送った私的なもの、ってやつの返事じゃないのか」 アンジュの目が大きく見開いた。 タイラーは彼女の表情を見て、自分の判断が正しかったことを確信した。だから、他の人間の目に触れることがないように、端末間の通信で送りたかったのだ。 操作の手を止めず、タイラーは画面を注視した。「このホログラム、画面から離れても存在できるらしい。……まったく、どんな技術を使ってるんだか。この部屋の照明って落とせるか?」「できるけど……全部?」「ああ。通信文にそう書いてある」 不思議そうな顔をしたアンジュがタブレットをタップすると、一斉にカーテンがおり、部屋の照明がすっと消えた。光を発しているのは、タイラーとアンジュのタブレットの画面だけだ。 そのとき、タイラーの手元から宙にふわりと浮かんだ黒い球体が、アンジュの掌に移動してきた。「えっ、何これ?」「俺が聞きたいよ、不明の差出人に。危険性がないのは確かだ」「それはそうだろうけど……わっ!」 アンジュが恐る恐る覗き込むと、球を包んでいた殻のようなものが弾けとんで、手元がぱっと明るくなった。「……花火!」 パンパンと乾いた音と共に、打ち上げ花火のような閃光が次々と現れた。 数え切れないほどの多くの色、鮮やかな光の数々が、暗がりを美しく彩っては消えていく。まるで小さな花火大会だ。「すごいな、これ」「ホロだから全然熱くないんだけど、不思議だね。温かい感じがする。ほら見て、ナイアガラまであるよ。梟も!」「バースの花火を研究したみたいだな。相変わらず、変なところで芸が細かい……」 褒めているのかいないのか、率直な意見を零したタイラーの横で、アンジュは目を細めた。「平くん。体操のスタンプカードのこと、覚えてる? 私ね、サイラスがいなくなったあともあの体操を続けて、自分でスタンプを押してたの。それが全部埋まったから送ったんだ。あなたがいなくても、あなたの生徒はちゃんと健康管理をしてますって」 常春の聖地にいるうちに、だんだんと四季に対する感覚は薄れていった。 だがこのとき、女王の手の中で、瞳の奥で、過ぎ去った夏の思い出が再び呼吸をはじめたようだった。「……よくできました、ってことなのかな」 弾けるように笑う彼女の掌の上で、ひときわ見事な大輪の花火が暗闇を照らすように花を咲かせた。畳む 2023/08/11
『夏の名残りの』
「ううーーん!」
アンジュは大きく伸びをして、朝の日差しを含んだ新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。溜め込んだ疲労がリセットされて、身体が細胞ごと生き返っていくようだ。
全身に満ちていく心地よさを噛みしめながら、特別寮を囲むように伸びる小径をゆっくりと歩く。花のにおいがする風を受けて、アンジュは微笑んだ。生まれたばかりの光が青々と茂る木々の葉に降り注いでいる。飛空都市の朝は素晴らしく気持ちがいい。夏の高原を思わせる爽やかさだ。
その日の曜日は、いつもより早くすっきりと目が覚めた。シャワーを浴びてもサイラスが朝食を持ってくるまでまだ時間があったから、外に出ることにした。
休日の早朝に散歩しようなんて、会社員時代には思いもしなかった。予定がなければ泥のように眠り、気づけば昼を過ぎていた、なんて日も珍しくなかったのに。
ゆるやかなカーブをすぎようとしたとき、どこからともなく小鳥の囀り……ではなく人の声が聞こえてきた。
声というより、歌のような?
アンジュは思わず足をとめ、耳を疑った。
「これって」
子ども時代、準備体操のときに流れていた曲のように聞こえるのだが。聞き間違いかと思い、アンジュはもう一度耳を澄ませた。
「……あれだよね?」
でも、間違いじゃない。絶対にそうだ。リズムもメロディも、大人になった今なお耳と身体に刻み込まれている。
「これはこれはアンジュ様。おはようございます」
背中を見せて屈伸していた声の主が、こちらを振り返ってにこりと笑いかけてきた。
「やっぱり」
「やっぱり、とは?」
アンジュは女王候補の執事につかつかと歩み寄った。
「絶対にサイラスだと思ったんです」
「オオ、そのような絶大な信頼を寄せていただくとは。光栄の極みですね」
「体操してるんですか」
サイラスはいつもの執事服ではなくラフなTシャツ姿だった。髪も整えていなかったから、彼もまだ起きたばかりなのかもしれなかった。
「はい。朝の軽い運動は心身のバランスを保つのにいいんですよ」
サイラスが心身のバランスを崩すなんて想像できなかったが、彼も人間だ。そういうこともあるのだろう。
アンジュは尋ねた。
「それ、バースの体操ですよね」
「そうです。バースの動画サイトで見つけ……これだ! といたく感銘を受けまして。健康管理に取り入れようと思った次第です」
「毎朝やってるんですか」
「基本的には。アンジュ様たちの朝食をおいしく作り上げるための、大切なルーティンです」
昨日の目玉焼きは失敗作って自分で言ってた気がするけど、という言葉をアンジュは飲み込んだ。
「私も子どもの頃よくやってたんですよ、その体操。たぶんタイラーとレイナも」
「なるほど。心の故郷、というわけですね。テーマ曲も覚えてしまいました。バースのロングヒット曲だと聞いています」
「ロングヒット……?」
ふんふふふふふんと、サイラスはごきげんな様子で鼻歌を披露した。
「朝の爽やかさを感じる、良い曲だと思います」
「歌上手ですね、サイラス」
「あなたもしていきますか、体操」
「今ですか」
「はい」
「ここで?」
「ええ」
「……サイラスの伴奏つき?」
「僭越ながら。二番も歌えますよ」
少し考えてから、じゃあ、とアンジュはぺこりと頭を下げた。
「よろしくお願いします。最近ちょっと運動不足かなって思ってたんです」
「こちらこそ。では張り切っていきますよ!」
「あっ、ちょっと待って!」
楽しそうに腕を振り上げるサイラスの横で、アンジュも同じように大きく腕を動かした。
飛空都市では不思議なことばかり起きて、毎日驚かされる。
まさか、執事と体操をすることになるとは!
二番まで終えた時点で、アンジュは軽く息を切らせていた。
「私、二番の動きは知りませんでした。ちゃんとやると結構疲れるんですね……」
「毎日継続することが体調管理への近道です。こちらをどうぞ」
サイラスが手渡してきたのは、葉書サイズのカードだった。ポイントカードのように小さなマスが書かれていて、最初の欄にスタンプが押してある。干物の。
「いつも差し上げているポイントとは別になります。バースでは、体操をした子ども達にスタンプをあげているとか」
「夏休みにですよね? 私が住んでいるところではなかったですけど……でも、ありがとうございます」
素直に受け取ったあと、疑問が頭によぎった。
……子ども?
サイラスの唇に、ふっと笑みが浮かんだ。
「アンジュ様、また体操がしたくなったときにはお付き合いしますよ。女王候補様方の健康管理も執事の役目のひとつです」
ふだんからちょっと変わっているしちょっと失礼なところがある人だが、ラフな格好をしているせいか、いつもよりも笑顔に仕事用の胡散臭さがない、気がした。彼の方こそ、目に子どもみたいな光が浮かんでいる。
「日の曜日でしたら、大抵この時間ここにいますから。ま、時々サボることもあるかもしれませんが」
自己申告の通りたまにサボる日もあったが、ほとんどの休日の朝、女王候補の執事は同じ場所で体操に勤しんでいた。もちろん鼻歌のテーマソングつきで。
体操の参加者はサイラスとアンジュだけではなく、アンジュに誘われたレイナがいたこともあった。サイラスに引きずられるようにタイラーが参加した日もあり、興味を持った守護聖たちがいた日もあり。女王試験が進むごとにアンジュのスタンプカードは埋まっていった。通販で買っているのか、毎回違うスタンプが押されているのがサイラスらしい。
日常のポイントと同じように、スタンプを集めたら何かと引き換えられるのだろうか?
それからしばらくして、アンジュは真夜中にふと目が覚めた。なぜか突然、体操のスタンプカードのことが頭に浮かんだ。
「……そっか」
そこでふと、あのカードのスタンプが最後まで埋まることは永遠にないのだと気づいた。
――大陸の発展度が八十になった夜のこと。
「タイラー、これを神鳥の王立研究院に送ってほしいの」
王立研究院にあるミーティングルーム。先日提出した報告書の問題点の検証を終えたあと、女王から差し出された白い封筒を、タイラーは恭しく受け取った。
「はい、了解しました」
「忙しいのにごめんなさい。私的なものだから、手が空いたらお願いします。そうそう、私からっていうのは伏せておいて」
私的なもの、しかも匿名扱い? どうにも引っかかりを覚えたが、他ならぬ女王の頼みだ。タイラーは戻り次第、すぐに手続きを行った。
数日して、女王宛に神鳥の宇宙から差出人不明のファイルが届いた。女王宛、かつ差出人不明である。危険性がないかどうか、当然、中身を確認した。
「……ったく」
解析を完了し、数列が並んだ画面から視線を外すと、タイラーはデスクに肘をつき、小さくため息をついた。
「平くん、どうしたの? 仕事の相談?」
「とにかくタブレット開いて」
「今すぐ?」
「そう。直接送りたいものがある」
午後の仕事を切り上げて女王の元に向かったタイラーは、執務室で二人だけになったとたん口調を崩した。
不思議そうにタブレットを立ち上げる女王の目の前で、タイラーは自分のタブレットを素早く操作した。
「お前宛のファイル。神鳥から」
「私宛? 何だろ……」
「この間送った私的なもの、ってやつの返事じゃないのか」
アンジュの目が大きく見開いた。
タイラーは彼女の表情を見て、自分の判断が正しかったことを確信した。だから、他の人間の目に触れることがないように、端末間の通信で送りたかったのだ。
操作の手を止めず、タイラーは画面を注視した。
「このホログラム、画面から離れても存在できるらしい。……まったく、どんな技術を使ってるんだか。この部屋の照明って落とせるか?」
「できるけど……全部?」
「ああ。通信文にそう書いてある」
不思議そうな顔をしたアンジュがタブレットをタップすると、一斉にカーテンがおり、部屋の照明がすっと消えた。光を発しているのは、タイラーとアンジュのタブレットの画面だけだ。
そのとき、タイラーの手元から宙にふわりと浮かんだ黒い球体が、アンジュの掌に移動してきた。
「えっ、何これ?」
「俺が聞きたいよ、不明の差出人に。危険性がないのは確かだ」
「それはそうだろうけど……わっ!」
アンジュが恐る恐る覗き込むと、球を包んでいた殻のようなものが弾けとんで、手元がぱっと明るくなった。
「……花火!」
パンパンと乾いた音と共に、打ち上げ花火のような閃光が次々と現れた。
数え切れないほどの多くの色、鮮やかな光の数々が、暗がりを美しく彩っては消えていく。まるで小さな花火大会だ。
「すごいな、これ」
「ホロだから全然熱くないんだけど、不思議だね。温かい感じがする。ほら見て、ナイアガラまであるよ。梟も!」
「バースの花火を研究したみたいだな。相変わらず、変なところで芸が細かい……」
褒めているのかいないのか、率直な意見を零したタイラーの横で、アンジュは目を細めた。
「平くん。体操のスタンプカードのこと、覚えてる? 私ね、サイラスがいなくなったあともあの体操を続けて、自分でスタンプを押してたの。それが全部埋まったから送ったんだ。あなたがいなくても、あなたの生徒はちゃんと健康管理をしてますって」
常春の聖地にいるうちに、だんだんと四季に対する感覚は薄れていった。
だがこのとき、女王の手の中で、瞳の奥で、過ぎ去った夏の思い出が再び呼吸をはじめたようだった。
「……よくできました、ってことなのかな」
弾けるように笑う彼女の掌の上で、ひときわ見事な大輪の花火が暗闇を照らすように花を咲かせた。
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