こうして数日が過ぎた。数日……いや数十日、もしかしたら数百日?
忘れてしまったけれど、とにかくまた夜が来た。
最初に目覚めた庭園の芝生で横になりながら、無数の星々が瞬く夜空を眺めた。
相変わらずお腹は空かないし、喉も乾かない。身体も汚れず、お風呂も不要。合理的といえば合理的ですね、とはサイラスの弁。
たくさんのものが欠けているこの世界でも、不思議なことに空は巡る。朝と昼と夜がある。
生き物の習性みたいなもので、身体は眠りを恋しがるのだが、相変わらず少しも眠くならない。
くうくう、すやすや、むにゃむにゃ。
それでも、毎晩へたくそな寝息を立てて寝たふりをするのは、サイラスが夜になると何か考え事をしているから。昼間のおどけた態度とは対照的な、深い深い海に沈みこむような沈黙が彼の周りに漂っている。その邪魔をしたくはなかった。
飛空都市の話、守護聖の話、バースの話、神鳥の宇宙の話……サイラスとのおしゃべりとあてのない散歩で昼間はあっという間に過ぎていく。
けれど、これからどうなるのか、どうすべきか。それが話題になることはもうなかった。小さな街のあらゆる場所はすでに調べ尽くしてしまったし、今のところ自分たちにできる手だてはないことを二人とも感じていた。
こんな状況なのに、不思議と心は落ち着いていた。
みんな心配してるかなとか、どうすれば帰れるのかなとか、不安とか焦りとか。
夜が来るたびに、だんだんと、ひとつずつ、人間らしい感情が遠くに消えていくみたいだ。頭上に散らばった星みたいに。穏やかで冷たいあの光みたいに。
辛くも苦しくもなかった。お腹は空かず、喉も渇かず、ひたすらに静かで安らいだ世界。けれどそのうち、花を見ても星を見ても、美しいとは思えなくなるのだろう。それを思うと、少しだけ恐い。
とりとめもなく考えながら、固く目を閉じる。
眠りのない夜は、ひどく長い。
寒さも暖かさも感じないのに、どこか底冷えするようなつめたさを身体の芯に感じる。と、気持ちを見透かしたように、サイラスが上着をかけてくれた。
ありがとう、と心のなかでお礼を告げる。
あたたかいなと思う。
彼といる限り、私はこのドールハウスのお人形ではなく、人間でいられる。
サイラスは再び少し離れたところに腰を下ろして、立てた膝に片腕を置き、遠いところを眺めている。
鼻歌も鳥の声も聞こえない。
あるのは……。
寝返りを打ち、眠る代わりに彼の背中を見つめる。
思わず声をかけたくなったけれど、それはきっと自分の不安や寂しさを紛らわせたいだけで。