が、突然サイラスがくるりと振り向いた。
「!!!」
 しまった、目が合ってしまった。慌てて瞼を閉じるがもう遅い。
「しまった目が合ってしまった! ……というお顔をされていますね」
 サイラスにさくりと指摘されて言葉に詰まった。彼はすっと立ち上がり、手を差し出してきた。
 彼の掌に乗っていたのは……折り紙だった。
 折り紙の、小さな鳥。
「フクロウ、ですか?」
「以前、バースの文化を調査していた際に折り方を見つけまして。それをさらにアレンジしてみました」
 ずっと背中をこちらに向けていたからわからなかったけれど、いつの間にか折っていたらしい。
「これ、サイラスくんメモ?」
「はい。メモだけでなく折り紙にも活用できる優れものです」
 どうぞ、と言われてフクロウを自分の手に移した。
 こちらを眺めてくるフクロウのとぼけた表情に思わず唇がゆるんでしまう。
「ちゃんとフクロウの顔してる」
「羽もありますよ。パタパタもできます」
「へー、すごい!」
 サイラスに教えられて、パタパタと羽を動かしながら感嘆の息をもらす。折り紙に触るなんて小学生以来だ。心地よい懐かしさが胸にこみあげてきた。
「かわいいですね」
「ありがとうございます」
 そのとき、ふと疑問が浮かんだ。
 あれ?
 軽くて乾いた紙の感触をもう一度確かめてみる。触っているという感覚がある。
 そういえば、と自分の服をつまんでみた。布の厚みも手触りも、ちゃんと指に伝わってくる。
 今まで意識していなかったが、どうやら、あちらの世界から持ち込まれたものは肌で感じることができるらしい。
「どうなさいました?」
 サイラスに呼びかけられて、気づいたことを説明した。
「なるほど。そういわれてみればそうですね」
 ぺたぺた、すりすり。
 はじめて出会うかのように、新鮮な気持ちで自分の身体を触ってみる。
「あの」
 それからふと、何の気なしに口にした。
「触ってみてもいいですか」
 あなたに。
 主語を忘れていたが、サイラスには通じたようだった。
「…………」
 彼はしばし沈黙してこちらを見つめてから、別に構いませんよと答えた。そっと腕を伸ばし……
手に触れてみる