いいですか。いいですよ。
もうそんな視線を交わす必要もなかった。
腕を回した。腕が回された。
半身をぎゅっと包んでくる腕に込められた力に、「彼」はいない。それは、私がほしいと願うだけの強さだ。
特別きつく抱いたわけでも抱かれたわけでもなかったけれど、触れたところのすべて、身体のすべてが叫んでいた。
あなたがいて、私がいる。
恋とか愛とか、そういった甘くてとろりとしたものはなかった。
獣たちが鼻をつきあわせて、お互いの存在を確かめているみたいだ。
「サイラスがいてくれてよかった」
自然と口にしていた。
サイラスはどこにいても、どんな状況におかれても、やっぱりサイラスで。それがどれほど助けになったことか。
「あなたがいてくれるから、自分を見失わないでいられる」
なんて自分本位な感情だろう。
彼は応えなかった。
きっと、私がいてよかったとサイラスは思っていない。微かな溜め息に似た呼吸から、触れた肌から、労るように背中に置かれた手つきから、それが伝わってくる。
ここにはひとりでくるべきだったと、そう思っている。
ごめんなさいという言葉を飲み込んで、その肩越しに夜空を眺める。
美しく、正しく、秩序が守られ、それゆえあらゆるものが停滞している空っぽの世界で、星々だけが息づいていた。
「ねえ、サイラス」